NSAIDは今も関節リウマチの痛みに欠かせない薬剤ですが、使い方を誤ると胃潰瘍・消化管穿孔のリスクがあります。本院では「痛くなければ飲まない」という原則を徹底し、根本治療によってNSAIDが不要になることを目指しています。
NSAID潰瘍のリスクと胃薬について
整形外科診療所で扱う疾患は慢性疼痛疾患が大多数なのでNSAIDの処方は他科を圧倒しています。[#1]
患者層の多くを占める高齢者では、NSAID投与に伴って起こる無症候性の胃潰瘍の発生とそれに引き続く腸管穿孔などの合併症が大きな問題としてクローズアップされてきました。そういった胃腸障害を予防するために、NSAIDに必ず胃粘膜保護剤をセットで処方することがなかば習慣化しているのが現状です。
ただし、若年の患者さんやNSAID服用が短期・頓服の患者さんへは予防投与を行わなくても問題が起こることはごく稀です。必要性の高い患者さんを個別に判断することが重要です。
本院のNSAID使用法
ロキソプロフェンは1日2回処方を基本とする
一律な1日3回食後処方では「痛みがないときでも必ず服薬しなければならない」と考えてしまう患者さんが多く、無用な胃腸障害発生のリスクにつながりかねません。速効性と短時間持続性を兼ね備えたロキソプロフェンが使いやすい理由です。[#3]
NSAID潰瘍の最大の予防はNSAIDを不要にすること
慢性疼痛疾患の根本的治療によりNSAIDの投与自体を不要にしてしまうことが、胃粘膜保護薬・抗潰瘍薬の併用よりも重要です。RAでいえばMTX・生物学的製剤の早期かつ十分量の投与、変形性膝関節症(OA)では適切な運動療法や手術がこれにあたります。RA・OAに共通するのが、ケナコルトなどの速効性のある関節注射の併用です。
消化管有症候患者・慢性萎縮性胃炎などの胃潰瘍の発症リスクが高い患者さんには H2ブロッカーやPPI・COX-2阻害剤を使用するケースがありますが、そういったケースこそ1日も早くNSAIDが不要となるような原疾患治療を優先させることが重要です。
ピロリ菌検査および除菌
NSAID服用中に胃腸障害の症状を訴える患者さんには、抗潰瘍剤などの併用だけでなく、ピロリ菌検査と陽性であれば除菌を行うよう指導しています。
わが国のようなピロリ菌陽性率の高い胃癌多発国では、消化器専門医のみならずプライマリーケアに携わる前線医師の責務だと考えています。本院では患者さんに「血液検査で簡単に診断できますよ。ピロリ菌がいると胃癌にもなりやすいですよ」と説明すると大半の患者さんが検査・除菌治療を希望されます。内視鏡検査は毎年受けているのに、ピロリ菌の有無は知らされていないといったケースが散見されます。
COX-2阻害薬(セレコックス)について
胃腸障害の少なさという点では従来のNSAIDよりCOX-2阻害薬が優れていることは事実です。また、セレコックスは長時間作用性のため1日2回投与で効果が持続し患者さんの利便性が高いとされています。
ただし長時間作用型薬剤は効果発現に要する時間も長く、患者さんからロキソプロフェンのほうがよく効くという声を多く聞くのが私の経験です。長時間作用は長所にも短所にもなりえます。COX-2阻害薬の消化管障害発生率の低さを過信することについて警告する報告もあります。[#4]
本院では90%以上はロキソプロフェンを選択し、COX-2阻害薬は明らかな消化性潰瘍の既往などの例外的なケースに限定しています。
RA治療でのNSAIDの位置づけの変化
1990年代のMTX導入・2000年代の生物学的製剤の登場により、RA治療は「治らない病気から治る病気」へと画期的な変化を遂げています。MTX導入以前は、ステロイドやNSAIDを連日・数年以上に渡り投与することが当たり前で、完全な除痛が困難なリウマチ患者にとってNSAIDが不要になることはないのが常識でした。
現在のRA治療の目標は「低疾患活動性の達成 → 臨床的寛解 → ドラッグフリー寛解」です。その最初のステップが「NSAIDがいらなくなること」または「毎日ではなく頓服になること」だといえるでしょう。このステップを達成することで、患者さんは眼に見えて病状が改善していることを実感できます。
生物学的製剤について → MTXほかリウマチ治療薬 →生物学的製剤のスムーズな導入と合併症予防対策
私達が行っていること
初診時に「必ず痛みはとります」と約束すること
関節リウマチと診断された患者さんは、以前からの「不治の病」というイメージがまだまだ強いため必要以上に悲観的になっています。さらに医師による細々とした合併症などの事務的な説明がことさらに不安を増してしまうというパターンが多いです。
患者さんが必要としているのは、専門医の豊富な経験に裏付けされた自信に満ちた態度と、ポジティブな言葉です。患者さんは「治ります」という医師についていきます。実際にすべての患者さんの寛解を実現できるわけではないことがわかっていても、痛みを早期に軽減すれば、後にクレームをつける患者さんは皆無です。
痛みをすぐにとること ステロイド関節注の工夫
早晩MTXと生物学的製剤が効いてくるとはいえ、その効果を待つ間の患者さんの苦痛・不安ははかりしれません。そういったときこそ、速効性のあるステロイドが必要です。
患者さんだけでなく医師側も必要以上にステロイド剤に対してネガティブイメージを持っていることがありますが、私達は強い腫脹のある関節には直接ステロイドを注入したほうが全身への副作用が少なく総投与量も少量にすむため、内服よりも多用しています。
薬剤としてはトリアムシノロンアセトニド(ケナコルトA)が、速効性・安全性・持続性の面で他のステロイドを凌駕しているというのが私達の実感です。多用するのは膝・足関節・肩関節などです。
多数関節腫脹時には、現在は肩関節滑液包(ケナコルトA 40〜80mg)への注入法を行っています。これまで1,000例以上の患者さんに行っていますが重篤な副作用はなく大変有用な手技です。この手技を導入して以後、プレドニンの内服患者は激減しています。
治療途上の小目標をつくる
具体的には「痛み止め(NSAID)がいらなくなること」が第一の小目標です。次に内服プレドニンの減量・中止になります。適切な関節注射の併用とMTXの十分量の投与で、大多数の患者さんで容易に達成できます。
早期治療について
2010年にACR・EULAR共同で改訂された関節リウマチ分類基準は非常に優れたものだというのが私達の実感です。「膝関節1か所だけにくるリウマチも実は多い。膝関節の重要性は他の関節よりはるかに高いため、たとえ1〜2か所でも早期治療が不可欠」という私達のこれまでの主張が追認された形です。
滑膜炎の初期症状は関節液または腱鞘滑液の貯留です。たとえば痛風や半月板損傷など明らかな他疾患による関節水腫を除外できれば、単なる膝の水だけで滑膜炎の定義に相当すると考えるべきでしょう。滑膜炎の定義を「滑膜自体の明らかな増殖」とすると、そこまで病態が進行していては治療開始が遅すぎるのです。
まず腫脹関節または肩関節滑液包へのケナコルト注射で即時に痛みをとり患者さんが治療に前向きになったうえで、早期にMTXを十分量投与することで痛みのない状態を維持します。本院では8mgを超えて増量する患者さんが大半です(12〜30mg/週)。生物学的製剤はリウマチ患者さんの約60%に導入しており、多くの患者さんが十分量のMTXを併用することで健康な人と変わらないレベルにまで改善しています。
エタネルセプト(エンブレル)の場合、十分量のMTXを併用することにより、多数が25mg週1回の投与で寛解または低疾患活動性を維持できることがわかっています。なかには10日に1回・2週間に1回の投与で良好な患者さんも多いです。「コストパフォーマンスに優れた生物学的製剤を使用する時代に入った」と私達は考えています。
合併症・副作用対策
現在まで約1,000例の生物学的製剤使用経験の蓄積により、本院独自の感染症等予防ガイドラインを作成しています。手術時の薬剤休止期間・推奨するワクチンガイドラインなども含みます。
- 呼吸器基礎疾患を有する患者さんへのパルスオキシメーターの貸し出し・自己測定
- 肺炎球菌ワクチンおよびインフルエンザワクチンの全員接種
- ST合剤(バクタ)の生物学的製剤投与患者全例への予防投与[#6]
- 帯状疱疹ワクチン(生ワクチンのためMTX段階で接種)
- DPTワクチン(成人の百日咳多発が根拠)
合併症・感染症の進行を未然に防ぐため、患者さんが気軽に相談できる電話再診システムやメールによる相談も積極的に取り入れています。患者指導・説明を十分に時間をかけて行うことで、電話が引っ切り無しにかかってくるような問題は生じていません。
特に重要なのは、医師の診察室とは別にスペースをとり、経験豊かなナースが腰を落ち着けて対面で家族全員にゆっくり説明することです。「風邪をひいたときどうすればよいか」など詳細にわたる具体的な説明が、患者さんに大きな安心感を与えます。
変形性膝関節症(OA)治療 私たちの考え
RAがMTXと生物学的製剤の併用でほぼ痛みフリーな状態に持ち込むことが容易になったのに対し、OAにおいてはいまだ根本的な治療といえる薬剤や軟骨再生・軟骨移植技術が確立されていません。いまだにNSAIDをある程度長期間服用する必要のある患者さんはRAよりも多いと思われます。
OAの炎症期に関節内で起こっている炎症メカニズムは、実はRAのそれとなんら変わることがないことがわかっています。[#7]強弱・持続期間の違いがあるだけで、軟骨の変性・融解を起こし最終的には手術を要するような変形をきたすという結果は患者さんにとっては同じことです。
OAの炎症はRAと比べて緩徐なのが特徴なので、前述のon-demandのNSAID使用が可能です。
本院ではまず運動・食事・生活習慣のチェックと指導を医師と理学療法士が中心となって行います。私達はOAや近年増加している骨壊死は「膝に来るメタボだ」と患者さんに説明しており、生活習慣指導は脂質異常症などの内科的指導と同様の内容になることが多いです。
進行したOA・特に内反膝に対しては完全な除痛を達成できる保存的治療はなく、除痛効果において人工関節手術にまさるものはありません。ただし、膝に水がたまっている場合にはヒアルロン酸注入は効果が薄いため、RA同様ケナコルトの関節注を行うことが多いです。
膝関節OAにケナコルトを使用する場合、間隔は3か月以上・年に2〜3回までを目安とし、滅菌手袋と厳密な滅菌手技を厳守しています。また、最近では膝関節MRIを撮影することによって骨壊死症の合併がないこと・関節液の貯留があることの2点を確認したうえでケナコルトの関節注を施行しており、さらに安全性を高めることが可能です。
参考文献
- 遠藤徹ほか. 消化器. 2004;38(5):438–444.
- Monthly ミクス. 2010;増刊号:50–52.
- 鶴岡正吉ほか. 薬理と治療. 2007;35(11):1101–1105.
- 川合眞一. リウマチ科. 2010;43(2):205–209.
- 松野博明. リウマチ科. 2008;39(6):548–554.
- Saito K, et al. Rheumatology. 2004;43:479–485.
- 福井尚志. 医学のあゆみ. 2004;211(4):303–306. OAにおけるサイトカイン-炎症性サイトカインの意義.
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